大阪姉妹殺害事件 - 「居場所」なき者の犯罪
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「仲間のマンションを出たが、その後の生活のめどが立たないことから自暴自棄になり、『守るものも失うものも、居場所もない。引き留める人もいないなら、やりたいことをやってやる』と考えた」

■強盗殺人等被告事件の被告人、山地悠紀夫が捜査段階において供述した言葉です。
昨年11月、大阪市浪速区のマンションで、飲食店店員の姉妹2人が刺殺されました。
強盗殺人(強盗の意思があったのかは争われている)などの上に、証拠隠滅のため放火。
凶悪な犯行の数々に目を覆いたくなります。(注1)

■被告人山地悠紀夫が公訴事実をほぼ認めたため、裁判の中心的な争点は責任能力の点(心神耗弱)となりました。
10月24日の公判において、精神鑑定を行った鑑定人(精神科医)が出廷。
当初疑われていた広汎性発達障害の存在を否定し(注2)「完全な責任能力を認めることができる」と証言をしました。

■25日、26日と2日連続して行われた被告人質問
山地悠紀夫が少年時代に起こした母親殺害についての経緯が主に質問されました。(注3)
彼の不幸な生い立ち
酒を飲み暴力を振るう父親。
母親は子育てにあまり熱心ではなく、家庭内では喧嘩が絶えない(山口家裁の審判で、乳幼児期にスキンシップや言葉かけが極端に不足して生じる「愛着障害」と認定されているようだ)。
父の死亡後(父親は長期間、家で療養していた)、母親と2人で暮らすが、母親が使途不明の借金を繰り返し、息子がアルバイトで稼いだ金を使う。

「居場所」のない山地の生い立ちが弁護人の口から語られる。
ところが一方、何を聞かれても山地から語られるのは「わかりません」「記憶にありません」「調書に書かれているのであればその通りだと思います」というフレーズの数々。
小さく細い声で淡々と発せられる(被告人は自分の内面を他人に知られることを拒み続けた)。

■母親殺害後、山地は00年9月に中等少年院に送られ、03年に仮退院をしました。
しかし彼には「居場所」が見つからなかった。
人は他人からのコミュニケーションを通じた承認により自尊心や尊厳を獲得します。
承認を得ることができる「居場所」は人にとってなくてはならないものなのです。

■社会に「居場所」がないと悟った被告人は、社会から離脱をしました(脱社会)。
社会から離脱した者にとっては、私たちの社会に通用している規範(社会規範)は、欲望に歯止めを掛ける箍にはなりえません(規範の消滅)。(注4)
なぜなら、社会は自明の前提ではなくなるので。

「今後、彼(山地悠紀夫)の資質は変わることはありえますか?」
27日(注5)、再び出廷した鑑定人に対して裁判官が質問をしました。
「ないと思います」
鑑定人はこのように答えました。

■10月31日、ご遺族の方の意見陳述、11月10日、検察側の論告求刑、弁護側の最終弁論が行われ、その数日後、判決が言い渡されることになります。
言い渡される判決は、おそらく死刑でしょう。

(注1)
詳しい点は「寸胴鍋の秘密」さんが記事にされています。
「山地悠紀夫という暗闇」

(注2)
鑑定人はいろいろとその理由を述べていたが、私が印象に残った事実は、
・三人の臨床心理士が精神鑑定に携わったが、被告人は臨床心理士によって態度を変えていた。
・事件前、マンションの住人の不意打ち的な質問に対して普通に答えていた。
・検察官が殺人について取調べを行うのではないかと、検察官の態度により事前に察知していた。

(注3)
今回の事件で山地悠紀夫は「母親を殺したとき、そのもだえ苦しむ姿に興奮したことから、人を殺し快感を得て金品を奪い生活費を手に入れようと決意した」と供述していますが、この「母親を殺したとき、そのもだえ苦しむ姿に興奮した」という事実は、母親殺害の少年審判の際には語られなかった事実です。
25日の公判で、弁護人はこの点を何度も山地に質問していました。
「なぜ今になってこのような供述を始めたのか?あなたはあえて自分を悪く見せようとしているのではないか?」と。
山地は「質問されなかったから語らなかっただけです」と答えていました。
27日の公判で、鑑定人は、母親殺害の際に語らなかったのは少年時代においては性的な事実を語ることに消極的であるからではないかと分析していました。

(注4)
もちろん鑑定人が強調していたように、山地の生まれついての資質として、情緒不安定でカッとなりやすいという点があり、生い立ちだけが凶悪事件の動機付けの背景にあると考えるのは適当ではないと思います。

(注5)
27日の公判で行われた被告人質問において、被告人の死刑を求める嘆願書(2万2800人が署名)が提示されました。
「これを見て何か思うところはありますか」と検事に質問された山地悠紀夫は、少し時間をおいて、そしてそれまでの声のトーンよりもあきらかに小さな声で「何も思うところはありません」と答えました。
少し動揺しているように感じました。

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by asatte_no_houkou | 2006-10-29 01:17 | 犯罪・刑罰・裁判
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