『大日本人』を観た - 現代の日本社会を風刺した傑作だと思う
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■淡々と主人公である大佐藤の孤独な日常をドキュメンタリータッチで描き、そこにある微妙なズレから笑いを生みだす。
「生活する悲しみ」(注1)を笑いに結びつけるという松本人志ならではの高度な技術である。

■そこにおいては絶妙な間と主人公の心の機微を表現する高度の演技力が要求される。
この『大日本人』において、主人公・大佐藤を演じる松本はそれを見事にやってのけている。



■それは松本自身が言っているように、大佐藤は松本人志そのものなのだからだと思う。
笑いの求道者としてストイックに笑いを作りだす職人・松本人志。
松本の笑いの信奉者は多い。

■しかし時として松本は、移ろいやすく軽薄な世間による批判に晒されることがある。
「大日本人」でありながら世間の批判にさらされる孤独な大佐藤は松本人志そのものなのであろう。(注2)

■泣きどころや笑いどころが明確で、過剰な説明がなされる日本のテレビドラマやハリウッド映画ばかりを見ている人たちには、この作品は理解しにくいと思う。
(これは松本の作品すべてに共通することだが)この作品を理解するには行間を読む能力が必要だからだ。

■さてこの『大日本人』。
現代の日本社会を風刺した傑作だと思う。
『大日本人』というタイトルがアイロニカルで面白い。

■私たちが守るべき「日本」、言い換えれば日本における個人の意思や感情を越える「良きもの」とは何か?
正義?命?伝統?
その中身についてどれもまともに答えられない日本人。
インタビュアーの質問にしどろもどろ。

■戦後、日本人はこの点をまともに議論してこなかった。
なぜならアメリカに下げ渡された憲法のもと、とにかく経済復興に邁進すればよかったからだ。

■しかし今日、冷戦構造が崩壊し、アメリカのエゴイズムが日本の国益を害する事態が表面化しつつある。
他方、リベラルデモクラシーだけで回る国など社会システムとして存在しない。
だとすれば、守るべき「日本」とは何かについて国民的議論により明らかにしなければならないと思う。

■もし、なにも議論せずにこのまま放置すれば、この作品のラストで暗示するように日本はアメリカの一部になるしかないであろう。
つまり日本の「良きもの」とは、アメリカになってしまう(日本の自称保守派(エセ保守)の面々はそれを是としているようだが)。
『大日本人』は、「笑い」と重ね合わせながらこのような点を考える契機を日本人に与える傑作といえると思う。(注3)(注4)(注5)

(注1)中島岳志(北海道大学助教授)の言葉である。

(注2)通常のシーンはリアルに描かれているのにもかかわらず、戦闘シーンはあえて全くリアルではなく安っぽく描かれている。このギャップが面白い。

(注3)映画評論家の山根貞男が朝日新聞夕刊において以下のような評論をしていた。
「ハチャメチャのふざけた映画を予想かつ期待したが、意外や意外、上出来のマジメな映画である。」
「屈折した松本流愛国心はたっぷり楽しめても、何事かを笑いで吹き飛ばす映画ではなく、悲哀の情をそそる。」

(注4)「オタキング」こと評論家の岡田斗司夫が以下のような評論をしていた(サイゾー8月号「夢の島メディア考現学」)。
「オチ」という逃げは用意されず、「笑いとは何か?」という疑問に実験で答えた前衛作品だ。
これはもはやお笑いとは言えない。
大日本人は映画というエンターテインメントではない。
観客を不安にさせ、感情を弄び、笑いも感動も禁じて、最後は突き放してしまう。
実はこれ「芸術」なのだ。
松本監督もすごい映画つくっちゃったよなあ。

(注5)映画評論家の藤崎康が、論座2007年9月号で「大日本人」を絶賛していた。
松本人志の初監督作品『大日本人』は、疑似ドキュメンタリーとヒーローものという二つの異質なジャンルを掛け合わせた怪作である。
しかもその大胆な異種交配が生んだ奇形的な作風は、型破りのデタラメさで見る者を揺さぶりながらも、たんなる荒唐無稽に流れることなく、むしろこの映画の入り組んだ物語を巧みに支えている。
松本は、CGをあたかも万能薬のように乱用して人体の変容や戦闘シーンを撮ることでかえって映画を廃品(ジャンク)化してしまった当節のハリウッド映画に対する痛切な否(ノン)をCGそのものによって表明したのではないか。
『大日本人』の松本人志が、最盛期の北野映画の影響を十分に吸収消化しつつ、TV的な「お笑い」からあえて身を引き離そうとしているのに対して、かつて傑作を連打した北野自身が自己パロディ(実は裏返しのナルシズム)で味付けしたTVコント集的な映画しかとれなくなっているという事態をどう考えればよいのか。

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by asatte_no_houkou | 2007-07-07 00:41 | 映画の感想だよ
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